妊娠判明

とにかく、死ぬほど忙しかったのだ。

何せこの3ヶ月、正月2日と2月に2日休んだきり、あとは会社に出ずっぱり、帰宅は毎日0時過ぎ。そんな生活に不満のShokoは一人でマレーシア旅行を計画している。それもまあ仕方ない、むしろこっちも気が楽なのでせいぜい楽しんできてくれよといった感じだった。

そんなある日、いつものように深夜帰宅すると、これまたいつものように彼女はすでにベッドの中。しかし「お帰り」に続く言葉はいつもと違った。

「妊娠したよ」

一瞬固まったが、疲れで反応が鈍っているせいか大して驚きもせず、「何で判ったの?」と尋ねる。病院で確認したわけではなく、妊娠判定薬を使った結果らしい。妊娠判定薬の的中精度がどんなものか知らないが、何となくせいぜい50%くらいなモノとその時は思ったので、宝くじを買っただけで当たった気になるのと同じくらい早まってるなコイツと思いつつも、「とりあえず病院行かなきゃ」と無難なせりふを吐いておく。実際、明後日には旅行に出発の予定だから、その前にはっきりさせた方がいいに決まっている。とにかく眠いのだ。後は明日にしてくれ。しかし当然のように彼女は続ける。

「どうする?」

我々の生活に子供は必要ないということでこれまでのところ意見は一致していたが、彼女の中では一度は子供を生みたいという気持ちもあったろうから、どうすると言われてもむげに要らないと言う訳にもいくまい。僕は基本的に常に前向きがポリシーなので、本当に妊娠しているのならそれはめでたい!という気持ちに瞬時に切り替えられる準備はあったが、ここで手放しで歓ぶのもしらじらしい。彼女の機嫌を損ねない、何か気の利いたことを言わねば、と考え、生まれるとしていつ頃になるのだろうとすばやく計算する。できたのが2月として9ヵ月後だから…

「せっかくだから平成11年11月11日に産もうか」

その後ほんとに産むの云々といった会話が続いたように思うがもうよく憶えていない。自分的には平成11年11月11日というのがかなり気に入って、ほんとにそうなるといいなあなどと思いつつ眠りについたのだった。

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