誕生まで 第3話

自宅出産計画あるいは海外出産計画

99.05.xx

Aクリニックの看護婦さんの麻由美さんがフリーの助産婦をやっていることは書いたが、もう少し詳しく書くと、産院や助産所で出産するのではなく、自宅で出産したい産婦さんの家に出かけていって自宅出産を介助するという、昔ながらの助産婦さんみたいなことをやり始めていて、これからどんどんやっていきたいらしい。麻由美さんの話を聞いているうちにShokoも自宅出産をしたいという気になっていったようだ。

僕自身、病院ではなく自宅で産婆さんの手によって生まれた(らしい。憶えているわけではない)ので、自宅出産というのに抵抗は無いが、その意義については全く無知、無関心だった。せいぜい病院で生まれるのがあたりまえになっている昨今、自宅出産というのがかえって新鮮というか特権的というかトレンドというか、温泉でいえば箱根や熱海じゃなく人里離れた隠し湯みたいな(例えが変か?)ものなんだろうかぐらいに考えていた。

まあ産むのは彼女なんだし、病院でも自宅でも彼女が生みたいところで産むのが一番良いのだろうと、とりあえず賛成しておいたというのが本当のところだ。それが、自宅出産に関する本やらウェブサイトやらいろいろ彼女に読まされているうち、病院は院内感染が怖いとか、赤ちゃんは生まれてすぐに母親に抱かれなきゃだめなんだとか、胎盤は生姜醤油で食べると美味いとか、もう、自宅出産以外ありえないよこれは。というところまですっかり洗脳されてしまい、二人そろって積極的自宅出産派となってしまったのだった。Aクリニックも確かに良い病院のようだが、やはり出産は自宅じゃなきゃね、お願いしますよ麻由美さん、という感じだった。しばらくは。

よく言えば研究熱心なShokoが、海外で出産した人の本(タイトル失念)を読んで今度は海外で産みたいと言い出した。理由は3つ。
 日本よりも外国の方が赤ちゃんに対して寛容であり、良い環境で出産できる。
 我が家の冬は寒い。寒すぎる。こんな環境で赤ちゃんを産み、育てるなんて考えられない。
 アメリカで産むと自動的にアメリカ国籍が得られる。将来子供ができることの選択肢を増やしてあげたい。(米国限定)
だそうだ。

具体的にはマレーシアか、アメリカ。マレーシアは友人のGillianの故郷で、Shokoも何度か遊びに行ったことがあり、Gillianも実家で子供を産むなら協力すると言ってくれている。ちなみにGillianの家は、僕は行ったことないが、すごい豪邸らしい。国籍を優先するならアメリカだが、これはもう、頼る人もなくホテル住まいのゲリラ出産を目論んでいるのだから論外というほかない。さすがに海外出産に関してはもろ手を挙げて賛成するわけにいかず、なんとかShokoの感情を害さずに説得せねばと、苦労した。

確かに我が家は古い木造の一階で、冬は異常に寒い。だがこれは長期間海外で暮らすことを考えれば、同程度の投資でしのげるのではないか。大家さんにも相談して窓や床、それに風呂場を改装すればきっと暖かくなるさ。というわけで、とても納得したとも思えないが今すぐ結論の出る話でもなく、何となく先延ばしになったまま、いったいこの子はどこで生まれるのだろうと半年後に思いを馳せるのだった。

エコー写真(05.07)@Aクリニック
す、すごい。人の形してる・・・ 胎児ってホントに宇宙人に似てるねー

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