誕生まで 第9話

破水して病院へ!果たして自然分娩できるのか?

99.11.10~11

11月10日、いよいよ予定日である。僕は今日から2週間産休をとり、いざ出産に備える。が、一向に陣痛が来る気配も無いようだ。僕は一応妊婦のパートナーらしく気を利かせて
「何か食べたいものあったら、買ってくるよ」
などとやさしい言葉をかけてみたりすると、Shokoは
「焼きイモとキムチとコージーコーナーのケーキ」
と遠慮会釈なくのたまう。 これまでの摂生はなんだったのかと半ば呆れつつも、素直に従い、ひとっ走り買い物に出る。Shokoはバクバクと焼きイモとキムチとケーキをあらかた平らげ、この異常な食欲がもしかして予兆?などと思ってみたりもしたが、やはり陣痛はやってこないまま、夜もふけゆく。うさはお願いした通り、明日になるまで出てこない気らしい。整体の先生にも多少陣痛がきても痛みが寝られる程度なら朝まで寝たほうがよいと言われていたので、二人顔を見合わせ、「寝るか・・・」となる。

が、ベッドに入ってしばらくした頃、Shokoが突然がばと起き上がり、トイレに駆け込む。何事かとドキドキしながら僕も起きる。トイレから出てきたShoko、
「破水した」
それが何を意味するか。陣痛の前に破水したら自然分娩は諦めなければならないという暗黙の了解。 せっかくここまで頑張ったのに…という虚脱ムード満載で、Shokoは育良へ電話、僕は荷物の準備をする。至急来いとのこと、時計を見ると23時15分。今からタクシーを拾って行くと育良に着くのはもう11日かなどと漠然と考えながら、青梅街道までタクシーをつかまえに走る。さいわいすぐにタクシーはつかまり、家の前まで回してもらう。Shokoは乗り込むやいきなり横になり、運転手さんはさぞ驚いたろうが、事情を察するといろいろ気を使ってくれ、ありがたかった。タクシーの中で、とりあえず麻由美さんに連絡しておこうと電話すると、これからすぐ来てくれるという。申し訳なかったが、不安だったのでこれもありがたかった。

育良クリニックに着くと、時計は0時をわずかに回っていた。入院費1日分浮いたと不謹慎なことを考えつつ、Shokoの診察結果を待つ。浦野先生は相変わらず不機嫌そうで、羊水が少し濁っているが、子宮口はまだ指1本分しか開いていず、もう少し様子を見ようということになった。即手術かと思っていただけにちょっと胸をなでおろす。入院部屋は8畳くらいの和室で、家族も泊まれるようになっている。

助産婦さんが、陣痛がそろそろきつくなってきたShokoの背中をさすってくれたりしながら、多分朝までかかるから旦那さんは少し寝たほうが、と言われるので、お言葉に甘えて素直に寝ることにする。僕はとにかく夜に弱いのだ。ちょうど麻由美さんも到着し、早まって呼び出したことを詫びる。ちょっとウトウトしていると、何やらばたばた、どうも心拍モニターが上手くいかないらしい。助産婦さんが子宮口の開きを確認すると、何といきなり全開という。急遽分娩室へ。本来ならこの部屋で自由な形で分娩もできるのだが、Shokoの場合は骨盤位ということで、分娩台での出産を余儀なくされている。あわただしく分娩室へ入るが、勝手がわからず居場所の無い僕に、助産婦さんが分娩台の脇に椅子を用意してくれる。 このとき1時45分。家を出てまだ2時間半しかたっていないのが信じられない急展開だ。僕は椅子に座ってShokoの手を握る。Shokoの陣痛はとても激しくなっているらしく、呼吸の合間に悲鳴が混じる。助産婦さんが「とっても上手」とか「もうすぐだよ」とか励ましの声をかける。僕は何か声をかけたのか、それとも息を詰めて見守っていたのか全く憶えていない。ただ、もうすぐって言いながら後何時間もかかったりするんだろうなあと思っていた記憶はある。そうこうしている内に浦野先生が呼ばれ、浦野先生の手によって会陰切開される。会陰切開は無しが希望だったが、これは逆子のため止むを得ないという。浦野先生のはからいで麻由美さんがメインの助産婦に。この辺からもう何がなんだか憶えていないが、とにかく。

あっという間に、うさは出てきた。3時11分。

おんなのこだった。

麻由美さんの手で、うさがShokoのお腹の上に。

感動。

浦野先生に「利き手はどっち?」と聞かれ、いきなりで戸惑いつつ、僕は左利きなのでそう答えた。助産婦さんに左手に手袋をされ、はさみを渡される。僕がこの手で臍の緒を切るのだ。しかし臍の緒はゴリゴリと硬く、なかなか切れない。僕は確かに左利きだが普段はさみは右手で使うのだ。大体このはさみだって右利き用だし。何とか苦労して臍の緒を切る。出産に立ち会ったんだという実感が湧いてきた。しかし男の子と信じて疑わなかったうさが、よもや女の子だったとは…男の子だと思っていたので心の底に封印していた『本当は女の子が欲しかったんだよーん』という本音が渦を巻いて湧き上がり、猛烈に嬉しかった。きっと、男の子だったとしても猛烈に嬉しかっただろうけど。

助産婦さんに「カメラは持ってきてないんですか」と言われ、あわてて部屋に駆け戻って鞄からカメラを取り出し、分娩室にまた駆け戻る。うさにフラッシュを浴びせては可哀相と思い、フラッシュ無しで撮ったのであまり良い写真が撮れなかったのは残念である。一応、出てきた胎盤も撮った。さすがに分娩室で胎盤を食べるわけにもいかないので、これは諦める。胎盤は小さく、500gしかなかった。うさの体重は2536g。Aクリニックのエコーでは2850gと言われていたので予想外に小さかった。エコーというのはあまりあてにならないようだ。Shokoは楽に産めるようにできるだけ小さく、でも保育器入りにならないように、2600gで生まれてきてねとお願いしていたので、うさは、ちゃんとお願いを聞いてくれたわけだ。そして、11月11日に生まれてねという僕のお願いも。今思うと、ふたりのエゴたっぷりのお願いを聞いたためにうさがお腹の中で苦労したんじゃないかと猛反省。次の子がもし生まれるときには「自由に好きなように生まれてきていいよ」と言いたい。

なにはともあれ、無事生まれて本当に良かった。破水からわずかに4時間、入院して3時間。この間にちょこっととはいえ寝ていたワシって…後々Shokoに言われ続けるんだよなあ、薄情な奴って。

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